私にとっても、そして、この文章を読む多くの人にとっても、暴力やドラッグや警官に殺されることは、みな他所の出来事だ。だが、それらすべてが日常であるような場所に生 き、そこから声を上げている者たちがいる。

彼らは、抑圧された被害者であると同時に加害者であり、犯罪者ですらある。彼らのいる場所も、彼らがどう生きてどんなふうに死んでいくのかも、私は知らない。けれど、彼らは確かに存在するし、神は、彼らを見て、知っ て、「愛」してさえいる。そのことを私たちも知っているはずだ。

ではヒップホップに福音はあるか、と問われても、答えはノーだ。ヒップホップは良きおとずれを告げはしない。それは闇の中の叫びだ。闇の中から虚構を曝(あば)く叫びだ。彼ら は、社会の虚構だけでなく、自分のどうしようもない姿をも容赦なく曝きだす。言い繕わない罪は開き直りと紙一重かもしれない。だけど、取り繕った善男善女たちと、言い繕うことを潔しとしないサグ(ならず者)どもと、神はいったいどちらを喜ばれるだろう。

アナムネーシスは「想起」である。Black Lives Matterは警官に殺された黒人たちの名前を忘れない。彼らは理不尽に殺された仲間たちを歌とことばで想起する。絶望しかない現実の中で、想起は希望へのよすがとなる。彼らの希望は、私たちの希望とどう繋(つな)がるのか、あるいは繋がらないか。いずれにしても、彼らの場所に、私(たち)がいないという現実を簡単に超えることはできない。

それでも、彼らを通してこちら側を見直す時、私たちは自分たちの罪と虚構性に気づかされ、おのれの醜い姿を想起する。それは開き直るた めでも、出てきたところに戻るためでもない。十字架と復活(レザレクション)の恵みを より深く想起(アナムネーシス)し、復活の生命に生きるためである。 前著『ヒップホップ・レザレクション』も合わせて読んで欲しい。。
評・中山信児=日本福音キリスト教会連合菅生キリスト教会牧師

『ヒップホップ・アナムネーシス』
山下 壮起・二木 信編
新教出版社 2,750円税込、A5変型

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